■新☆仏蘭西黒魔導師 原本小説 2 


多少、ボイスドラマと設定が違う箇所がございますが、ご了承ください。


 

「なんで!?なんで兄さんだけが人間界に行ってしまったんですか?」
 ここはシウボリガント星。帽子の形をした生命体が住む星であり、オッド(帽子の部分のみ)の故郷である。今ちょうど、「兄(オッドの帽子の部分のことを指す)」が父の大目玉を食らい、人間界へ流れていったところだ。先ほど大声を上げたのは弟2である。
 ちなみに兄の家族構成は年の多い順にオッド(兄)から見て、父、母、弟1(次男)、妹、弟2(三男)である。
「いいな~、オレも行きてーなー、人間界。そーしたら、かわいい女の子いっぱいナンパしに行くのに~。」
 と、プレイボーイの次男。それをギロリと妹が睨みつける。
「し、しかたねーだろ!オレ達の種族は女がオフクロとお前しかいねーんだからっっ!ババアとガキンチョなんかナンパして何が楽し…」

バキイッ!
 


 弟1が言い終わる前に、妹のパンチが鮮やかにキマる。
「まったく、何で兄さんは女の子のことしか頭にないのよ!…んん、まぁ、わたしも人間界に興味ないわけじゃないんだけどね~。」
「そんなに興味があるんなら、兄さんを探しに行ってくれるんでしょうね!」
 弟2が詰め寄る。
「え!!そ、それは…。」
「別だよねぇ~。」
 どうやら弟1や妹はメンドーなことには巻き込まれたくないらしい。そりゃあ、よりによって探しに行くのが「兄」であるから、どんな大変なことに巻き込まれるかわかったものではない!!というのが彼らの本音であった。
「…やっぱり。」
弟2はため息をついた。
「じゃあ、ぼくが一人で行ってきますよ!!」
 こうして、一人のシウボが旅に出掛けた。

弟2は長い時間かかって人間界に降り立った。彼が降り立った所はどこかの川みたいだった。そしてとりあえず自分をかぶってもらえそうな人間を探し始めた。しかし、探し始めて1分も経たないうちに、弟2は自分の方をじーっと見て歩いてくる、本を持ったメガネの青年を見つけた。
『なぁっ!じ、自分がタダものではないとバレているのか!!まだ全然動いてもいないのに!!ああっ、やばい!足音が近付いてくる!!この足音の大きさからすると、ぼくとあの人との距離は約20.58m。彼の小幅を仮に一歩1.02mとして、彼の歩く速さを~(何やら難しい計算式が出てきたので中略)x=11.284(四捨五入)、あと約11秒でこっちに来る!!』
 そんなことを言っているうちに11.284秒は過ぎ、その青年に見つめられた。
「ん~、だれかの忘れ物なのかな~?大きくて黄色い派手な帽子だなぁ~。黄色いスラ●ムかと思ったよ~。」
 弟2は五分くらい彼に見られ続けていた。
『ああ、どうしよう!!』
 とそこへ、その青年が弟2を拾い上げた。
「…かぶってみよ~。」


カポ!!


 弟2はその青年にかぶられてしまった。
「ううっ…あ、頭が、…痛い!!ううっっ…。」
 弟2をかぶった瞬間、青年はなんとも言えない頭痛におそわれ、その場へ倒れ込んでしまった。
少しして青年は目を覚ました。しかしさっきまでの抜けた感じの青年ではなくなっていた。そう、青年はオッドと同じようにシウボに取り付かれたため、性格が変わってしまったのだ。だが、青年の場合、弟2の人格がなぜか強く現れていた。目を覚ましたと同時に、一冊の本が目に入った。開いてみると、どうやら青年の日記のようだった。それをしばし読んでみた。
「○月△日、今日、ユークリッドがヘンな帽子をかぶって、オッドなんとかになってしまったとティアちゃんが泣いていた。ユークリッドはそのままどこかへ行ってしまったらしい。ティアちゃん、かわいそう。」
「…ヘンな帽子?……もしかして兄さんのことか!?可能性は少ないけど、行ってみる価値はありそうだ!」
 青年は立ち上がった。

ぐらあ! 

 立ち上がった瞬間、青年はめまいにおそわれ、倒れそうになる。
「はぁ、はぁ、…あ、あれ、…ボクは、…今何をしていたんだ。」
「君、大丈夫?」
「ああ、大丈夫…って!あれ?」
 辺りを見回しても誰もいない。
「ここです、ここ!」
「あ、頭の中に声が…。一体何なんだ!」
「ぼくは君の頭に乗っているものなんだ…。ごめんね、いきなり。」
「…帽子!?帽子がしゃべっている!!非常識な!!」
 青年は帽子を取ろうとしても取れなかった。
「ごめんなさい、非常識で…。そうだ!こんなことしていないで、早く兄さんを探さないと!この世界までめちゃくちゃになってしまう!!」
「夢だ…夢だ!!帽子がしゃべるわけがない!!助けてくれ!!」
「君!説明してもぼくが帽子であってしゃべっていて頭から離れないのは説明しきれないのです!これは現実なんです…残念ですけど。」
「まだ急すぎて何がなんだかわからないが…素直に受けて止めて対処しなければ始まらないみたいだね。」
「そう、世界は君にかかっているんだ!」
「そんな大げさな…。」
「大げさではありません!さ、ユークリッドさんを探しましょう!」
 青年は驚いた。
「どうしてユークリッドを…?」
「ぼくは、ぼくの兄さんを探しているんだ。兄さんは世界を破壊するくらいの力を持っていて、すごく危険なんだよ。そして、その兄さんがユークリッドさんと一緒にいる可能性が少なからずあるみたいなんだ。」
「…よし、わかった(たぶん)。ユークリッドを探そう!それに、親友として、放ってはおけない!」
「そうだ、自己紹介が遅れましたが、ぼくは弟2(おとうとに)って言います。君は?」
「ボクは、ガスパール!」
「ガスパールさん!ちょっとの間、迷惑かけるけど、よろしくお願いします!」
「こちらこそ!よろしく!弟2!」
 素直に弟2を受け入れたガスパール。案外こいつも変なやつなのかもしれない。ちなみにガスパールはユークリッドの親友である。何ともラッキーな弟2!
 こうして、ガスパールはユークリッドを探し始めた。
 まず手はじめにユークリッドの家に行ってみたのだが、誰もいなかったため、仕方なくヨーロッパ各地域を回った。しかし、これといった情報は手に入らなかった。しかし一週間程経った頃、耳寄りな情報をラスコー地方に住んでいる老人により手に入れることができた。
「そう、あれは三ヶ月くらい前のことになろうかの。ここから600歩ほど進んだところ
の洞穴にな、一見普通だが、走るとなんと人とは思えぬような速さで駆け抜けていった、青装束にとんがり帽子の男を見たんじゃ。わしゃぁ、もう、たまげたで!そっちの方を向いておったらな、金色(こんじき)の光がその洞穴から溢れたんじゃ。それ以来、その男は戻ってこんのじゃ。」
「じゃあ、その洞穴に行ってみよう!」
「いいや、やめときなされ。あそこに行って戻ってきた者は誰一人としておらんのじゃ。恐ろしいところじゃぞ!」
「そうですか、…でも、ボクは行きます!親友のために!」
「やめときなされ!!」
「おじいさん!ありがとう!!」
 老人と別れ、ガスパール達は洞穴へ向かった。

 ……そして、二度と彼がそこから出てくることはなかった。






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