■新☆仏蘭西黒魔導師 原本小説 番外編1 

Title:【ヴィクトールがネシェノを弟子にした経緯

多少、ボイスドラマと設定が違う箇所がございますが、ご了承ください。



 
「ティア、さあ、私を強く抱きしめなさい。」
「はい!ヴィクトール御兄様。でも、何故ですか?」
「私にしっかりつかまっていないと、一緒にワープできないだろう?」
「そうですね、では。」
 そう言って、何も疑わずにルテティアはヴィクトールに抱きついた。
(ドキドキドキドキドキドキドキドキドキ…)
「御兄様、心拍数が乱れていらっしゃるようですけど、どこか具合でも…?」
 心配してヴィクトールを見上げるルテティア。
「い、いや。パワーがみなぎってきているだけのことだ。そろそろ呪文を唱えようか。ティア、目を閉じていなさい。」
「わかりました、御兄様。」
 ルテティアは硬く目を閉じた。
「(あぁ、なんて私は幸せなのだ!ティア、ティア…。こうして君と抱き合っていられる時を兄さんは待ちわびていたよ。愛しているよ、私のティア。おぉ…力がみなぎってきたぞ!!)」
 やけにハイテンションなヴィクトール。
「(おぉ、そうだ、はやく魔法で移動し、冷静な私に戻らなくては…。)」
 ヴィクトールが心の中で呪文をつむぐと、あたり一面に青白い閃光がほとばしり、その光とともに2人の姿は消え去った。


 移動した先はドイツ、黒い森と呼ばれている所。ヴィクトールとルテティアは上空にいた。
「さぁ、ティア、目を開けてごらん。」
 ルテティアはそっと目を開いた。そしてびっくりしたのは言うまでもない。自分達のはるか下に地面があるのだから。
「………ここは??」
「ここは昔、『黒い森』と呼ばれし所。その上空だ。ティアは飛ぶのは初めてだったから小驚いただろ。ほら、見てみなさい。この広大な大地、すべては神に創造されし宝。それを破壊される前にお前は強くなり、守らなければならない。よく見ておくのだ、この景色を。お前が自らの手で守ることができるようになるまで、私と修行をしよう。お前にはこの兄と同じ血が流れているのだ、必ず強くなれる。」
「はい!!頑張りますわ!」
「それではまず地上に下りよう。館を建てる。

 その言葉を一瞬のうちに実行してしまうのがヴィクトールだ。彼のイマジネーションが建物となって目の前に現れる。今までのフランスの家でもかなりの大きさだったが、こちらは更に軽く見積もったとしてもそれの8倍はあるだろう。
「わぁ…すごい…。」
「今日からここが私達の家だ。必要なものはすべてそろっている。まず着がえなさい。その服では動きにくすぎる。」
 ヴィクトールがルテティアのドレスに触れると、服が変わった。
「あら?」
「今日からはそれにしなさい。素敵だよ、ティア。」

こうして2人のラブラブ(ヴィクトールが一方的に、なわけだが)マジックレッスンが始まった。

 そうして3日程経った日の昼頃、ヴィクトールは考えた。
「(私はどうしてもティアに甘く接しようとしてしまう。これから修行が厳しくなった時、私がびしっ”と言わなければならないこともあるだろう。しかし……私は愛するティアにキツイ言葉はかけられない~!!!私の…私の繊細なガラス細工を壊してしまいそうで…。)」
 悩んでも、悩んでもやっぱり答えは出ない。
「そうだ!!こんな時はリフレッシュでもしに『自由の女神像』のある時代のニューヨークにでも行ってみよう!はぁ、私も自由になれたらどんなにいいことだろう…。全て、双子の自由にしている女神のせいだな…✘」



 ヴィクトールはニューヨークにやってきた。自由の女神像を眺めていると、突然声をかけられた。
「ねぇ、お兄さん、…変わった服着てるのね。これ、昔のフランス人が着てたようなデザインね。」
「……。」
 ヴィクトールは無視して立ち去ろうとした。
「ちょっ…!!待ってよ!!」
「なんだ。何かあるのか?」
「違いますよ!!ちょうどそこら辺の勉強してるからさ、気になっちゃって…。」
「…ほぅ。だから何だ?」
「それ、どこで買ったの?ちょっとそのお店訪問してみたくてさ。」
「…フランスだ。」
「…そっか、やっぱりフランスか…。じゃあ無理だな。あ、お兄さんも観光で来たんだ。ごめんなさい、突然変なこと聞いて。じゃ、ありがとうございました。」
「(……あ!!この娘、使えるかもしれん!!)」
「お、おい、ちょっと待て。」
 ヴィクトールは先ほど声をかけられた女性を引き止める。
「はい?何です?」
「お前、名前は?」
「……?何で?あたしはネシェノだけど、聞いてどうすんの?」
「ネシェノ君、ちょっと来てくれたまえ。」
「えぇえ!ちょっ…!!」
 ヴィクトールはネシェノを腕に抱え、ビルの谷間にかけて行った。そして即座に時間移動の魔法を唱え、2人の姿はそこから消えた。

「えぇえええ!!!どこよ、ここ!!はっ…!!もしかして…誘拐!?…誘拐よ、アンタ!さ、叫んじゃうからね!!

キャー!!誘拐よ~!!


 ヴィクトールは鼻で笑った。ふふん、と。
「叫んでも無駄だ。ここは紀元前の黒い森なのだから。」
「なっ…、何なの?!はぃ?紀元前??それに黒い森って、……ドイツじゃない!!アンタ、何者なの!?」
「教えてやろう。私は、マスターソーサラー、ヴィクトール=ヴェストファーレン=グリフィスだ。ちなみに今は時間移動の呪文を使い、ここに来たというわけだ。君は私がいないとニューヨークには戻れない。わかったかな?つまり君は私が許すまでここから帰ることはできないのだよ。」
「えぇえ!!………帰る。」
「帰りたかったら私の言うことを聞いてくれたまえ。後で君をさっきの時間に帰すから、何もあせることはない。ただ、私の言うことを聞いてくれさえすれば、問題はない。」

とここで突然、ヴィクトールの周りが不思議な空間に変化した。…時間が止まり、ヴィクトールはイリアス達がいる空間に呼び出されたのだ。
「…やはり来たか。」
 ヴィクトールは落ち着いて辺りを見回す。
 後ろから声がする。
「来たよ、何か文句あるわけ?このシスコン男!」
「シスコン言うな!鬼畜オデュッセイア!形上ではたしかに兄妹だが、実際はそうではないだろ!!」
「ふん。実際違っても形がそうだから!シスコンよ!」
「なんだと!」
 ヴィクトールとオデュッセイアは睨み合う。
「二人とも!やめなさい!」
 ここでイリアスが二人をとめに入った。
「オデュッセイア、私たちは喧嘩しに来たわけではないでしょ?!」
「…ま、そうだけどさ。」
「ふっ、そうさ、鬼畜女と喧嘩しても疲れるだけだからな。」
「何よ!…平社員のくせになまいきな!!」

 また二人の喧嘩がはじまる。その様子を見てイリアスは一旦下を向き、怒鳴りちらした。

「二人とも一度そこに直んなさい!!!」



 二人は驚き、不思議な空間で正座の形をとる。

 …イリアスの説教がはじまった。

 そして…数分後。やっと説教が終わり、オデュッセイアがイリアスに尋ねる。

「……で、イリアスしゃん。本題…。」
「はっ!そうよ、私達はそれを言いに来たのよ!」

 一呼吸おいてイリアスはヴィクトールに言う。

「ヴィクトール、これ以上人間を巻き込まないように!今、あの子を元の時代に帰しておいたからね!」
「…なぜ駄目なんだ?私だけではティアを甘やかしてしまう。ティアを成長させるためにはどうしても私以外の人間が必要なんだよ。」
「…駄目です。あなたは本当の任務を放棄した上、更にガイアの歴史を狂わせるつもりですか?そんなことしていたらアエネイス様にお叱りをうけますよ!」
「…アエネイス様は一つの星の歴史がおかしいなんてすぐに確認できないさ、大丈夫。何億とある星の中で、一回くらい手違いがあってもバレやしない。」
「…そうかもしれないけど!!」
「実は、この事件を人間がどう解決させるか気になるだろ?」
「そうそう!アタシは気になるんだよね~。今までの長い時間でこんなハプニングなかったからー。」
「オデュッセイア!あなた…。」
「イリアスしゃんもね、あぁ言ってるけど結構人間がどうなるか、どう対応するのか気になってるんだよ、平社員。」
「だから、平社員言うな!!このババァ!」
「なんですってぇ~(`曲´)」
「こら!また喧嘩しない!……まぁ、たしかにそう思ってるけどさ。」
「ならいいではないか。弟子の一人や二人作っても。」
「…うぅ~ん。」
「イリアスしゃん、ティアちゃんとこいつが二人きりってのが、可哀相じゃない?」
「そうね。それは確かに危ないわね。」

「おぃ。どういう意味だ!

 イリアスはヴィクトールの言葉を無視して話続けた。
「仕方がありませんね。今回は許しましょう。ただし、事が済んだら記憶消してちゃん と元の時代に帰すこと!…わかったわね?」
「わかっているさ。」
「じゃあ、さっき戻した歴史を元に戻すよ。」

 イリアスは歴史をいじった。

「いい、あの子にしっかり説明して、あんたの甘さに釘を打ってもらいなさい!!」
「わかってる。」
「あーあ…あの子可哀相に~。」
「…何だよ鬼畜女!」
「いぃやぁ~。別に~。」
「ところでヴィクトール、あの子でいいの?」
「あぁ。資質はあるみたいだからな。」
「よく見てるのね。あんな短時間に。」
「当たり前さ。弟子にするならそれなりの資質を持ち合わせていないと意味がないだろ。あそこ付近ににいた人間の中で飛び抜けて資質高かった人間だ。充分さ。」
「ふ~ん。ま、何とかまるく収めてね。平社員。」
「こら、いい加減にしなさい!…じゃあ、…また何か話があれば来るわ。何とかするのよ。」

 といって二人は消え、ヴィクトールは先ほどの時間に戻された。

 ………ただ、私の言うことを聞いてくれさえすれば、問題はない。」
「わけわかんない…。」
「仕方ない、『真実』を君に吹き込もう。」
 ヴィクトールはネシェノに必要なだけのいきさつを投射した。
「であるからして、君にティアと一緒に修行をしてほしい。君には資質があるから、ついていけるはずだ。」
「…わかった。」
 しぶしぶ答えるネシェノ。
「それと、これからは私のことを『師匠』と呼ぶように。」
「はいはい。」
「『はい』は一回!」
「は~い。」
 ということで19世紀のドイツの館にネシェノを連れていった。



 そして1年が経過した。

 ルテティアとネシェノは修行の成果があって、何とかヴィクトールに与えられた1年分のノルマを達成することができた。そしてヴィクトールから、そのご褒美(ヴィクトール自身のご褒美のような気もしないわけでもないが)として、シチリア&ロードス島めぐりをすることになった。

「師匠!!何であたしは連れていってくれないのですか?!あたしだってちゃんとノルマ達成したのに。」
「すまんな、ネシェノ。いいではないか、2人で行かせてくれたまえ。兄というものは、かわいい妹とたまには2人きりで旅がしたいものなのだよ。大丈夫だ、まずいことはせんよ。」
「はぃ?あたりまえです!!何が『兄というものは』ですか!!師匠だけですよ、こんなに溺愛している兄なんて。あ、1年一緒にいて思ったんですけど…。もしかして…師匠って…シスコン…??」
「なな、ななな何を言うんだね、ネシェノ君!わ、私はただ家族としてティア、私の妹…を、あああ、愛しているのだ。当然のことだろ??断じてそんなモノではない!!」
「ふ~ん、そういうことにしておきましょうか。」
「いいか、私のティアに『あんたの兄さんシスコンよ』とか吹き込んではならんぞ!」
「(認めた…。)はいはい。あ、でも、ど~しよ~かな~。あたしも一緒に連れて行ってくれるなら、考える。」
「ぐ…それは。…では、こうしようではないか?ティアと帰宅した後に、君の行きたいところへ日帰りツアーをしよう。」
「どうしてルテティアとは2泊3日なのにあたしは日帰りツアーなんですか~!!!!」
「私の中のマインドがそうさせるのだよ。許してくれたまえ、ネシェノ。」

 窓の外を見ながら夕日を眺めるヴィクトールに、言い返す言葉のないネシェノであった。


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